- 2024/05/17
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機械工に必須!センタレス研磨機の芯高調整を失敗しないための実践ガイド

センタレス研磨機で寸法が安定しない、テーパーが消えない…。
こんなとき、砥石やドレス条件ばかり見直していると、意外と見落としがちなのが芯高調整です。
芯高がほんのわずかずれているだけで、
- 片側だけテーパーが出る
- ロットごとに寸法がばらつく
- 表面粗さが悪化する
- 砥石やレストブレードの片減りが早くなる
といったトラブルが起こります。
この記事では、センタレス研磨機を使う機械工の方向けに、
- センタレスにおける「芯高」とは何か
- 芯高調整の考え方と具体的な手順
- トラブル発生時のチェックポイント
を、現場でそのまま使えるレベルまで噛み砕いて解説します。
目次
センタレス研磨機における芯高とは?

センタレス研磨は、砥石・調整輪・レストブレードの三点でワークを支える特殊な加工方式であり、その安定性と寸法精度を左右する根本要素が「芯高」です。どれだけ砥石条件や送り条件を整えても、芯高が外れていると寸法は落ち着かず、テーパー・真円度不良・表面粗さの悪化といった問題が必ずと言っていいほど発生します。つまり芯高は、センタレス研磨の“結果を支配する基準点”と言える重要なパラメータなのです。
センタレスで言う「芯高」の考え方
旋盤では「バイトの刃先を主軸中心に合わせる高さ」が芯高ですが、センタレス研磨機の場合は少し意味合いが変わります。
センタレスでは、
- 研削砥石の中心
- 調整砥石(調整輪)の中心
- ワークを支えるレストブレード先端
この3つの位置関係で、ワークの中心がどの高さを通るかが、実質的な「芯高」に相当します。
多くの機械では、
ワーク中心が研削砥石の中心より「わずかに上」
になるように設計されています。
この少し上げた芯高調整が、ワークを安定して送るための基本条件です。
芯高調整がズレたときに起きる現象
芯高調整が合っていないと、センタレス特有の不具合が一気に表面化します。
- テーパーが取れない
入口側・出口側で寸法が変わる。同じ条件でも、芯高が高すぎ・低すぎでテーパー方向が変わることがあります。 - 真円度・円筒度が悪い
ワークが3点(砥石・調整輪・ブレード)で正しく支えられず、回転が落ち着きません。 - ワークが暴れる・ビビりやすい
芯高が高すぎると砥石への押さえが弱くなり、低すぎるとワークが潜り込むような姿勢になります。 - 砥石・レストブレードの片減り
いつも同じ側だけ強く当たり、結果的に砥石形状が崩れ、さらに芯高調整が難しくなる…という悪循環に陥ります。
芯高調整は、「良い寸法を出すため」だけではなく、砥石や機械を長持ちさせるメンテナンスの起点でもあります。
芯高調整の基本的な考え方と事前チェック

芯高調整は、センタレス研磨における寸法精度・真円度・面粗度を左右する最初の基準づくりです。砥石条件や送り速度をどれだけ整えても、芯高が外れていると加工結果は安定しません。
そのため、調整に入る前にどの位置を基準に芯高を決めるのかを正しく理解しておくことが欠かせません。
芯高調整は「砥石中心+ワーク半径」で考える
センタレス研磨機の芯高調整は、次の3つをセットで考えると整理しやすくなります。
- 研削砥石の中心高さ
- レストブレードの高さ
- 調整輪の高さ・当たり位置
基準になるのは 「砥石中心からワーク中心までの高さ」 です。
機種やワーク径によって異なりますが、目安としては、
- 砥石中心より +0.01〜0.05mm程度上
といった設定からスタートするケースが多いです。
この基準値に対して、レストブレードと調整輪をどう合わせるかが芯高調整のコアになります。
芯高調整前に必ず確認したい3項目
芯高を触る前に、最低限次の3点を確認しておくと、ムダな調整を減らせます。
水平器や振動の有無も合わせて確認しておくと安心です。
- 砥石外径と摩耗状態
・外径が大きく変わっていると、中心位置も変化しています。
・砥石交換・大ドレス後は、芯高の基準も一緒に見直します。 - レストブレード先端の状態
・先端が丸くなっていたり欠けていると、芯高をいくら合わせてもワークが安定しません。
・目視+触感で、段付きや偏摩耗がないかチェックします。 - 機械レベル・異常振動の有無
・ベースが狂っていると、芯高調整だけでは寸法が落ち着きません。
・水平器や振動の有無も合わせて確認しておくと安心です。
センタレス研磨機の芯高調整手順

ここでは、丸棒をスルーフィードで研削するケースを想定した、芯高調整の一例を紹介します。
実際の数値は、機械仕様やワーク条件に合わせて読み替えてください。
① 砥石中心から芯高の基準を決める
- 研削砥石の外径を測定する。
- 機械の図面や基準治具から、現在の砥石中心高さを把握する。
- 「砥石中心+0.○○mm」を、今回の目標芯高としてメモしておく。
この「+0.○○mm」が、ワーク径や材質によって調整するパラメータです。量産で安定している条件がある場合は、その値を自社標準として残しておくと次回から早く立ち上がります。
② レストブレード高さで芯高を合わせる
次に、レストブレードの高さで芯高を形にします。
- レストブレード下にシムを入れ、「ブレード上面+ワーク半径 = 目標芯高」となるように調整します。
ハイトゲージやブロックゲージ、または「標準ワーク+治具」を組み合わせた芯高ゲージを用意しておくと、再現性が上がります。
③ 調整輪の高さと角度を合わせる
レストブレードで芯高調整のベースが決まったら、調整輪を整えます。
- 調整輪の上下位置:ワークが砥石側にしっかり押さえ込まれ、暴れない高さにセット
- 調整輪の角度:送り量・ワーク径に合わせて、仕様値を基準に微調整
この段階では「寸法」よりも、ワークがスムーズに送られているか・異音や異常振動がないかを重視します。細かい寸法は、次の試し研削で詰めていきます。
④ 試し研削で芯高調整を追い込む
- テスト用のワークを数本用意し、軽めの条件で研削する。
- 入口側・出口側の寸法を測定し、テーパーの有無を確認する。
- 結果に応じて、レストブレード高さを数十ミクロン単位で上下させる。
たとえば、次のような傾向があれば、芯高の見直しサインです。
- 入口太・出口細
→ 芯高が低すぎる、または砥石側に潜り込み気味。 - 入口細・出口太
→ 芯高が高すぎる、出口側でワークが持ち上がっている。
何本か削って「どう調整するとテーパー方向がどう変わるか」をメモしておくと、次回以降の芯高調整がかなり楽になります。
症状別・芯高調整のトラブルシューティング

芯高がわずかに外れているだけでも、テーパーや真円度不良、寸法の安定しない加工クセなど、仕上がりに特有の症状として現れます。問題の原因を芯高の観点から整理すると、調整ポイントが明確になり、必要以上に条件をいじらずとも短時間で不具合を解消できるようになります。
テーパーがなかなか消えないとき
テーパーが取れない場合は、次の順で原因を切り分けます。
- 砥石ドレス形状の確認(真っ直ぐ出ているか)
- レストブレードの角度/摩耗状態
- 芯高調整の方向と量
同じ条件で研削しても、
- いつも同じ方向にテーパーが出る → 芯高とブレード角度の組み合わせを見直す
- ロットや径違いで傾向が変わる → ワーク径変化に対して芯高が追随できていない可能性
芯高調整の記録に「テーパーの向き・量」もセットで残しておくと、次の段取りでの調整時間をかなり短縮できます。
寸法ばらつきが大きい・安定しないとき
寸法が日によって変わる、ロットごとに違う──という場合は、
- 砥石摩耗による芯高変動
- レストブレード先端の摩耗でワークの支点が下がっている
- 調整輪の当たり位置が変わり、実質的な芯高が変化している
といった「徐々に芯高がずれていく」ケースが多くなります。
この場合は、
- 砥石ドレスのタイミングと芯高チェックをセットにする
- ブレードの摩耗限度(交換基準)を決めておく
など、芯高を条件ではなく管理項目として扱うと効果的です。
表面粗さが悪い・焼けやすいとき
砥石の粒度や周速・切込みも大きく関係しますが、芯高調整のズレが原因になることも少なくありません。
- 芯高が高すぎ → 接触角がきつく、局所的に負荷・発熱が増える
- 芯高が低すぎ → 砥石に十分押さえつけられず、ワークが滑ってしまう
砥石条件を大きく変える前に、
- 芯高を標準値に一度戻す
- その状態で表面粗さを確認する
という順番でチェックすると、原因の切り分けがスムーズです。
再現性の高い芯高調整にするための現場の工夫

芯高調整を「ベテランの勘」だけに頼っていると、担当者が変わったタイミングで一気に品質が不安定になりがちです。
現場でよく行われている工夫としては、次のようなものがあります。
- 標準ワーク用の芯高ゲージを作っておく
旋盤の芯高ゲージと同じ発想で、標準径の丸棒+ブロックゲージで簡易ゲージを自作しておく。 - シム・敷板の組み合わせを記録しておく
「ワーク○○mm+砥石径○○mmのとき、シム××mm+××mm」といった情報を台帳やシートで管理。 - 芯高調整シートを作り、段取りごとに記入
砥石径・ワーク径・芯高目標値・実測テーパーなどを残しておくと、次回の段取りが一気に早くなります。
芯高は、センタレス研磨のすべての条件の起点となる基準です。
ここを数字と記録で管理することで、誰が段取りをしても同じ結果が出るラインに近づけていけます。
よくある質問(FAQ)|芯高調整の疑問

ここでは、芯高調整に関するよくある質問に回答します。
センタレス研磨機の芯高調整は、どれくらいの頻度で見直すべきですか?
砥石交換・大ドレスを行ったタイミングでは必ず確認した方が安心です。
量産品であれば、1日の始業前やロット切り替え時に芯高調整を点検項目として組み込んでおくと、寸法トラブルを防ぎやすくなります。
芯高調整は高めと低め、どちらが安全ですか?
旋盤と同様、センタレスでも「高すぎ」はトラブルの原因になりやすいです。
ワークが持ち上がりすぎて接触が不安定になるため、基本は標準値か、わずかに低めから調整していく方が安全です。
芯高調整と砥石条件、どちらから先に触るべきですか?
砥石条件を大きく変える前に、まず芯高調整を標準状態に戻してから判断するのがおすすめです。
芯高が狂ったままだと、砥石条件をいくら動かしても狙った結果が出づらくなります。
まとめ|芯高調整はセンタレス研磨の起点になる条件
センタレス研磨における芯高調整は、砥石中心に対してワーク中心をわずかに上げるという基本を踏まえながら、加工のすべてを安定させる起点として機能します。
芯高がわずかに外れるだけで、テーパーや寸法ばらつき、表面粗さの悪化、さらには砥石寿命にまで影響が広がるため、砥石径・レストブレード高さ・調整輪位置をセットで捉えることが欠かせません。試し研削を行い、測定し、微調整を重ねるプロセスこそが精度を引き上げる唯一の方法です。
その一方で、芯高のゲージ化やシムの管理、調整値の記録といった見える化を進めることで、芯高調整は属人的な作業から再現性の高い標準工程へと変わっていきます。
芯高調整を難しい特別作業として扱うのではなく、日常的なルーティンとして組み込むことができれば、センタレス研磨の精度と生産の安定性は確実に一段上のレベルへ到達します。
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